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腹に声を落とすように堂々と読むのがおすすめ『鹿よ おれの兄弟よ』

鹿よ おれの兄弟よ』(神沢利子 G・D・パヴリーシン絵 福音館書店 2004年1月)

この絵本は、福音館書店の元編集者 あの『ジャリおじさん』(大竹伸朗 福音館書店)を編集した澤田精一さんが、講演会の中で、ある絵本との対比でこの絵本をご紹介くださって、初めて読みました。
(ある絵本とは→『ほっきょくでうしをうつ』角幡唯介 作 阿部海太 絵 岩崎書店)

手元に置いておきたいなあ、買おうかなあと逡巡していました。

でも、大きいしなあ、はみ出るしなあ、読むの難しいしなあ、読む場がないかもなあ、と迷っていました。


2022年3月に一度、図書館で借りてきて、初めて人前で声に出して読んでみました。

循環するお庭でシニアの皆さんと。

読み終わったとき、シーンとなって誰も何も喋りませんでした。
しばらくして、「長い絵本をよく読んでくださったわねえ」とねぎらってくれました。

それが口火となり、たくさんの言葉がシニアの皆さんからこぼれてきました。

「無駄な殺戮じゃないよね。血となり肉となるんだよね。」

「神沢さんが文でどうして外国の人が絵を描いたんでしょう?」
「絵が綺麗ね」「細かいわね」
「バーコードの場所が残念ね」(図書館の絵本だから)
「神沢さんはどこに住んでらっしゃるんでしょう。」
「こういう生活と無縁だもんね。日本は狩猟民族じゃないよね。農耕民族だからね。」

そして、命をいただくということについての実体験についてお話ししてくれました。

「昔、鶏飼ってた。お客さんが来ると鳥料理が出て来る」
「うちの母も、鶏をしめてましたね。卵を産まなくなると、食べた。よくあんなことできたな」
「卵も貴重品だから10個を新聞紙で上手にくるんで病人の家に届けたわ。」
「鶏小屋に入って、ポンって卵が産まれたら、突ついて飲んでた。殻が最初は柔らかいのよ。」
「イタチみたいね。」

その後、どんどんと昔の思い出があふれてきました。


やっぱり、良いなあ、買おうかなあ、どうしようかなあ、とまだ、迷っていました。

そんなわたしがついに買わずにはいられなくなりました。

神沢利子さん100歳おめでとう展に行ったのです。三鷹市芸術文化センターへ。




『鹿よ おれの兄弟よ』は神沢利子さん80才のときの作品です。20年前ですね。

この展覧会では、絵本には採用されてない絵も含め、この絵本の全ての原画がずらりと展示されていました。それはもう圧巻でした。

絵本ではわからないのですが、原画は、精密な1本1本の線が紙にめり込む筆圧で、絵が浮き上がって見えました。

絵を描いたG・D・パヴリーシンさんは、シベリア在住のロシア人の人間国宝のような画家なんだそうです。

その圧倒的な展示室に、口琴の音色に乗せて神沢利子さんの朗読が流れていたんです。

その声が、すんごく良かった。

80歳代の神沢利子さんのお声です。

落ち着いていて、ゆったりとして、堂々として、張りがあって、芯があって、健やかで、神々しいお声。

わたしが読むの難しいなと思っていた、オノマトペも、ああ〜、そういう音かあ〜とストンと落ちました。
その展示室で14分くらいの朗読を3回、聞いて、自分の体に入れました。

(この後、保育園の先生向けの読み聞かせ研修のお仕事だったので)一旦、帰りかけたけど、やっぱり買おうと引き返して、ついに、買いました。

そして、5月のよく晴れたある日、青空の下、木漏れ日の中で、自分のものとなったこの絵本を大人の人たちに向けて、声に出して読んだのです。

あの、神沢利子さんの声を読みを思い出しながら、腹に声を落とすように読みました。

完全に独りよがりなのは承知しているのですが、それはとてもとても気持ちのよい時間でした。

この絵本は読むのに14分ちょっとかかり、なおかつ、大きいので、見かねて、一番前の方が絵本の反対側を支えて持ってくれました。
(計ったら709グラムありました)

シベリアの絵に、小田原の木漏れ日が重なりました。

気持ちよかったなあ。

神沢利子さんの100歳おめでとう展で、この絵本を生み出す際の、メモ書きが展示されていました。
そこにあった
「言葉の世紀末」
その言葉の意味を考えています。

80歳の神沢利子さんの抱く危機感、みたいなものがこの絵本を生み出す原動力になっていたのかなあ。

のほほんと、自分だけ気持ちよくなっちゃって。

限りなく最高芸術作品に近い絵本を2000円以下で購入できるありがたみ。

鹿よ おれの兄弟よ』(神沢利子 G・D・パヴリーシン絵 福音館書店 2004年1月)



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