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投げ捨てるべき旋律をそもそも持っていないとしても『あかちゃんのうた』
(松谷みよ子 ぶん いわさきちひろ え 童心社 1971年8月 企画・編集 椋ノ木社 装幀者 辻村益朗)
いくつかのうたが載っています。
楽譜はありません。
あとがきには松谷みよ子さんの言葉としてこうあります。
(以下引用)
いまごろこの本が出ることは、すこしおもはゆいのです。なぜならこれは、下の子が生まれたころの、ひとりごとのようなものですから。
けれどもこのごろは、あかん坊に話をしてきかせたり、いないいないばあ、とあそんでやったりする母親は、すくなくなったらしいのです。いや、子守唄だってうたわなくなったらしいのです。
(引用ここまで)
わたしは、1972年生まれなので、「このごろは」というのに該当します。
幸いなことに、わたしは、話をしてもらったり、遊んでもらったり、子守唄を歌ってもらって育ちました。
覚えているのか?
いえ。
覚えていません。
でも、わたしの初めての赤ちゃんが生まれたとき、当たり前のように母は、歌いかけ、話しかけていました。
その姿を見て、きっとわたしが赤ん坊のとき、同じように歌いかけ、話しかけていたんだろうとわかりました。
また、わたし自身、子守唄なしでは子育てはできなかったと思います。
松谷みよ子さんのあとがきの言葉をもう少し引用します。
(以下引用)
遠いはるかな祖先からうたいつがれた日本の旋律を平気で投げすててしまう。あかん坊だもん、わかりゃしない…、その合理性の浅さ。こわいことです。
(引用ここまで)
投げ捨てるべき旋律をそもそも持っているのかどうか、わかりません。
旋律はわからないかもしれないけれど、ただ、語りかけることは、できるかもしれません。
松谷みよ子さんのあとがきの最後にはこうあります。
(以下引用)
どうぞ、おかあさんの言葉で、声で、あかちゃんにお話をしたり、うたったり、あそんであげたりしてください。この本がそのきっかけになれば、こんなにうれしいことはありません。
(引用ここまで)
わたしは、この絵本を長女が生後5か月のときに買いました。
正直、そんなに何度も何度も繰り返し読んだ絵本という記憶がありません。
わたしには必要性がなかったのかもしれません。
この絵本の言葉を読むのが、こそばゆかったような気がします。
そんなわたしでも、ありがたいことに赤ちゃんに語りかけることは、無意識にしていたように思います。
赤ちゃんを抱っこして、お散歩して、風が吹いてきたら、「風が気持ちいいね」
「葉っぱがひらひらしてるね。
待て〜〜〜」
自分なりの言葉で、たわいもないことを語りかけていいの。
それは恥ずかしくなんかない。
ひとりごとでもない。
言葉が返ってこないからといって、何もわからないわけじゃない。
そのことは感覚的に知っていたと思います。
おむつを替えるとき、繰り返される単純作業として、黙って替えるのではなくて、
「あら、今日もいいうんちが出ましたね〜」
「あんよがのびのび、気持ちいいですね〜」
なんてことを話しかけてました。
それは特別なことでもなんでもなく、ふつうにみんながやっていることなんだと思っていたのです。
赤ちゃんに語りかけるのに、抵抗感があるママは、この絵本を教科書がわりに音読してみてもいいかもしれません。
風が吹いているとき、
おむつを替えるとき、
赤ちゃんが家族の誰かに似てるとき
赤ちゃんとお風呂に入るとき
赤ちゃんを寝かしつけたいとき
語りかけたい珠玉の言葉が載ってます。
困ったときは、絵本に頼るのも、ありです。
困ってないかもしれませんが。
恥ずかしいかもしれませんが。
大丈夫。
赤ちゃんと自分の耳しか聞いてません。
犬を見かけたら
「わんわんや
わんわんや」
だけでいいのです。
言えそうな言葉だけ読んでみたらいいのかなと思います。
わたしも恥ずかしいのあります。
柄じゃないかな〜みたいな。
ページの隅っこに、小さく「遊び方ワンポイントアドバイス」が載っています。
赤ちゃんとどうやって遊んだらいいかわからない という方は
こんな となえ言葉 も載っています。
(以下引用)
おつむ てんてん
おつむ てんてん あわわ
かいぐり かいぐり とっとのめ
おててを ちょち
ちょち ちょち ちょち
あんよを いちに いちに さん
おててにつかまり はい たっち
たった たった
だあれが たった
こうちゃんが たった
おひざに たった
ぽん ぽん ぽん
(引用ここまで)
イマドキの子育てでは、こういうの、もしかしたら、古臭いと思われるかもしれません。
どうなんでしょう?
先日、生まれて初めて、東京は練馬区にあるちひろ美術館に行ってきました。
ここには、「ちひろのアトリエ」として、1972年頃のアトリエを部屋ごと復元してあります。
低めの広いテーブルとその前に青と赤いソファの応接セットがありました。
「この椅子に座って、原稿を待っていたのよ」と
童心社の酒井京子さんがお話されていたそうです。
以前、酒井京子さんの講演会に参加したときに聞いたことです。
酒井京子さんは、童心社に入社して2ヶ月で、いわさきちひろさんの担当となったそうです。
ちひろさんの描く宮沢賢治の『まなづるとダァリヤ』のダリアの真っ赤な絵を見て
「ああ、この人は、ただものじゃない」と思ったそうです。
「わたしは、ただものだ」と黒姫の別荘でのご飯作りなどをしたそうです。
いわさきちひろさんは、その当時、編集者を目に前に座らせて、絵を描いていたそうです。
酒井京子さんは、いわさきちひろさんが絵を描く現場にいらしたのです。
手品師みたいにドライヤーを使って絵を描いていたそうです。
ダメなら、パッと捨ててしまう。
(捨てちゃうの? 拾って額に入れたい)
ご自分の手を鏡に映しながら、2ヶ月の赤ちゃんの指を描いて、
「これは3ヶ月の指になっちゃった」
と捨てちゃうんだそうです。
ということは、ここに描かれている赤ちゃんは、「生後2ヶ月」「生後6ヶ月」など、明確に月齢が描き分けられているということですね。
ただものじゃない一人の画家と
ただものじゃない一人の作家の
珠玉の絵と言葉の絵本なんだと、改めて読み返しているところです。
ちなみに、ちひろ美術館では、
受付でお姉さんにお願いすると、日本国憲法前文と第九条のカードがもらえます。
『井上ひさしの子どもにつたえる日本国憲法』
(絵 いわさきちひろ 講談社)
各家庭に必ず1冊あるべき絵本『井上ひさしの 子どもにつたえる日本国憲法』
『あかちゃんのうた』
(松谷みよ子 ぶん いわさきちひろ え 童心社 1971年8月 企画・編集 椋ノ木社 装幀者 辻村益朗)
#主観と本音で絵本を喋る
#読んでみたいと思ってもらいたい
#ほぼ毎日絵本紹介ライブ
#上甲の絵本紹介ライブ
↓
インスタグラムでも『あかちゃんのうた』ご紹介しています
目次
- ○ 童心社会長 酒井京子さんの講演会にて印象的な『いないいないばあ』に関するエピソード
- ・『いないいないばあ』は、批判にさらされてきた
- ・ボードブックにして欲しいという要望はお断り
- ・童心社の稲庭桂子さんと松谷みよ子さん
- ・文について
- ・絵について
- ・フォントについて
- ・表紙のピンクについて
- ・改版
童心社会長 酒井京子さんの講演会にて印象的な『いないいないばあ』に関するエピソード
2024年5月、童心社会長 酒井京子さんの講演会に参加しました。
酒井京子さんは、『おしいれのぼうけん』(古田足日 田畑精一 童心社)などを編集された編集者さんです。
『いないいないばあ』についてお話してくださいました。
わたしが特に印象に残ったエピソードをいくつかご紹介したいと思います。
酒井京子さんは、この絵本は「童心社の絵本」だとは思わない。もはや、日本民族のための絵本だ。それを童心社はただ預かっているだけだ、というようなことをおっしゃってました。
確かに、『いないいないばあ』はもはや、文化財だと思います。
『いないいないばあ』は、批判にさらされてきた
「いないいないばあ」は遊びでいいのに、なぜ、絵本にするのかという批判があったそうです。
↓
遊びだと、相手によって違うけど、絵本は、いつも同じくまちゃんと目を合わすことができるから、赤ちゃんが安心する。
ボードブックにして欲しいという要望はお断り
絵本でなければできないことがある。
本にとって大事なのは「めくる」こと。
そのときに「しなる」ことが大事。
赤ちゃんは、めくってくれることをわかっている。動くから、そこ、左ページを見ている。
その紙がしなり、めくられ、右ページに にゃあにゃを発見する。
いろんな「いないいないばあ」遊びの絵本があるけれど、左ページ→右ページに絵があるのはこの絵本の独自のもの。
童心社の稲庭桂子さんと松谷みよ子さん
「二人で何度も何度もペラペラペラペラめくっていたよー」と辻村益朗さんが教えてくれたそうです。
文について
ことばでつかまえられるか、まったく自信がないと、松谷さんは本当に悩んだそうです。
絵について
・瀬川康男さんが「オレに描かせろ」と名乗りをあげましたが、3回ボツになりました。そのため、瀬川さんを保育園に連れていったそうです。
そうしたら、瀬川さんは
「いやー、驚いた。赤ちゃんは全身で輝いている」
「赤ちゃんは常に『三昧(ざんまい)』の境地。敵わない」と言ったそうです。
『現代新国語辞典』(金田一春彦・金田一秀穂 編 学研)によると、「三昧」とは「雑念を捨て、精神を集中して乱さないこと。」だそうです。
・赤ちゃんのための絵は、はっきりとした輪郭が必要。派手な色じゃなきゃわからない。そう言われていた。
フォントについて
奥付にもお名前のある辻村益朗さんが、読売新聞の明朝体を元にご自分で作った美しいフォント。フォントを作るのは大変なお仕事なんだそうです。
表紙のピンクについて
表紙のデザインは辻村益朗さん。この色は4色刷では出ない。特色1色を加えた5色刷。その分、お金がかかっているということですよね。
もっと明るいピンクの方がいいのでは、と表紙の色を変えたことがあるそうです。
そうしたら、愛読者たちから苦情が殺到し、元に戻したそうです。
その派手なピンクの表紙の『いないいないばあ』を見てみたいです。
改版
わたしは、一つ、質問をしました。
わたしの持っている『いないいないばあ』の奥付に
「1981年5月25日 改版第1刷発行」とあるのです。
改版って何か変わったところがあるのかなと思ったのです。
そうしたら、「刷りすぎて、版が擦り減ってしまったので、新しく版を作り直した」ということです。