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『ノンタン』のすごさを知らなかった→安さ・大和絵・最多ミリオン・裁判
皆さんは、『ノンタン』をご存じですか?
「ミリオンぶっく」について、深く思いをめぐらせていますと『ノンタン』が、実は激しく存在感を放っていることに気づきます。
「ミリオンぶっく」最多掲載シリーズ絵本は、圧倒的に、『ノンタン』なのです。
必然的に、「ミリオンぶっく」最多掲載作者は、『ノンタン』の作者さんなのです。
それだけ、子どもたちに愛されてきた絵本 という実績と信頼がある はずなのです。
ところが、わたしが今まで読んだ絵本関連書籍などに『ノンタン』の評論めいたものを目にしたことがあまりないような気がします。(記憶にないだけかも)
絵本周りにいる偉い人たちは、『ノンタン』のすごさを知っているのだろうか?
「キャラクターもの」のくくりに入れ込んで、正当な評価をされていないのではなかろうか?
偉そうに言うくせに、自分は『ノンタン』1冊も持ってないです。
買わなかったです。
「キャラクターものの絵本」みたいな感じで、ちょっと見下すような気持ちがなかったかといえば、絶対嘘です。
でも、自分が子どもの頃、『ノンタン おねしょでしょん』を読んでもらった記憶はハッキリとあります。
幼いわたしは『ノンタン』大好きだったと思います。
なんだろう、これはいったい。
目次
- ○ 『ノンタン』の作者は
- ○ 安く
- ○ 出版する順番にも戦略が
- ○ 夫婦で表現者ってしんどくないですか
- ○ 『ノンタン』って大和絵なんだ
- ○ 泥沼の争いへ
『ノンタン』の作者は
図書館で予約して、『ノンタン』シリーズを借りてみました。
おお。おお? おや? え? あれ?
「ミリオンぶっく」に最多掲載作者としてその名を轟かせているのは、「キヨノサチコ」さんです。
ところが、図書館で借りてきた『ノンタン』シリーズの作者名は、2種類のパターンがあります。
1 キヨノサチコ 作絵
2 おおともやすおみ・さちこ 作絵
これは一体、どういうことか。
元々、ご夫婦で作った絵本だったんですね。
その後、離婚されて、(昭和45年結婚、昭和60年離婚)
過去作品も全て作者は (もとペンネーム 大友幸子)キヨノサチコさんになったんですね。
以前、チラリと「著作権で揉めて泥沼の裁判沙汰になった」とかいうのを耳にしました。
ふーん、そっか、夫婦で絵本作家だとおちおち離婚もできないわよねえ。
なんて下世話なことを考えたり。
こんな本を見つけたので借りてみました。
『二人でノンタン』(大友康匠・幸子 文藝春秋 1982年4月)
この本を素直に読むと、『ノンタン』は夫婦二人で生み出した作品だとわたしは感じました。
『ノンタン』は、最初は猫じゃなくて、キツネでした。
『あかんべきつね』でした。
安く
『あかんべきつね』を出版社に持ち込み、絵本にしましょう、と決まったとき、二人が出した条件は、「定価を安くしてください」ということでした。
『ノンタン』の価格は600円プラス税です。
驚くべきことに、この金額は、発行当初からずーーーーーーーーーーーっと、現在まで変わらないのです。
(「ミリオンぶっく」に掲載されている価格の推移を調べて驚きました)
すごいことだと思いました。
今、全体的に絵本の価格は値上がりしています。
税込660円で買える絵本は、なかなかないです。
『二人でノンタン』より
(以下引用)
豪華な大型絵本にしたかったのですが、そうすると定価がピーンとはね上ります。買い物帰りに立ち寄った本屋さんで、子供にせがまれたお母さんが気楽に買ってあげられる値段が、二人の希望です。パイプ氏(編集者)も賛成していいました。
「本のサイズは小型判にしましょう。それなら定価も安くなるし、子供も読みやすい。一石二鳥だ。本を開いたときの大きさが、子供の両肩の幅くらいに広がると一番扱いやすいのですよ」
(引用ここまで)
ね。
「安い」っていうのは、ものすごく重要なポイントです。
どんなに良い絵本も、高けりゃ、何かと物入りな子育て世代における購入の優先順位は低くなってしまうでしょう。
安く作ることを念頭に置かれたこのお二人は、自分たちのやりたいことを優先するんじゃなくて、買う人のことを想像してくれていると思いました。
作者が、自分のやりたい、作りたい絵本、かっこいい装幀にこだわって、あれこれほどこして、そのために絵本の定価がどんどん上がって、2000円を超える絵本を子育て中の親がホイホイ買いますか。
ちなみに、「ノンタン」という名前は、パイプ氏(編集者)の提案なんだそうです。
いいネーミングですよね。
「ゴロニャンちゃん」「ググー」「ボンボン」「かんたろう」「しろべえ」「ドラ」「プケ」など、たくさんの案がでたそうですが、どれになったとしても、今ほどは人気が出なかったかもしれないな。
出版する順番にも戦略が
さて。
『ノンタン』シリーズで、一番最初に誕生していたのは『あかんべノンタン』でしたが、一番最初に発行はされませんでした。
お二人は、不満だったそうですが、パイプ氏(編集者)はこう言ったそうです。
(以下引用)
「絵本を手にとって買うか買わないかをまず決めるのはお母さん。だから最初は母親が子供に買って与えたくなる本を出す。それで子供が気に入れば、続きが出たとき今度は子供が自分で選んで買ってもらう。初めに子供たちが絵本と出会うチャンスを作ってあげなくっちゃ」
世のお母さんたちが最初に『あかんべノンタン』を手にする。あかんべは教育上あまり好ましくないと思う。だから本を買わない。従って本は売れない。つまり子供たちとノンタンは友だちになれない、というわけです。
(引用ここまで)
なるほどねえ。
出す順番の作戦があるわけなんですね。お二人も納得したそうです。
最初に『ノンタンぶらんこのせて』『ノンタンおやすみなさい』を出版してから、1ヶ月後に『あかんべノンタン』を出版したそうです。
こんな小賢しい作戦をしなくても、子どもたちは「ノンタン」を愛したかもしれないけれど、ね。
でもやっぱり、お金を出すのは大人だから、どうしたら、その先の子どもと出会えるかを真剣に考えるのはすごく大事なのよね。
夫婦で表現者ってしんどくないですか
それにしても、わたしがいつも心配しているように、夫婦で同じ職業ってしんどくないですか。
ましてや、表現者だなんて。
どちらかが我慢したり、血みどろの喧嘩になったり、しないんですか?
↓
多くの場合、余計なお世話なことが多いですが。
(以下引用)
血で血を洗う戦いの結果、ホンワカと無邪気なノンタンの世界が出来上がるのです。
最初に二人はいくつかのテーマを決め、それに基づきストーリーを考えます。つぎに、各自が考えたストーリーに肉付けをして、絵コンテを作ります。
(中略)
いよいよ戦争開始! まずミセスノンタンは、意気揚々と自分のコンテをミスターノンタンに見せます。
「ねえねえ、見て見て」
ミスターノンタンは、実は自分の絵コンテの方が面白いと内心自信をもっていますから、面倒くさそうにペラッペラッとページをめくります。そして、ちょっとでも気に食わないところがあると、やおら赤鉛筆を取り上げ、父の敵! とばかり、満身の力をこめて大きく「×」を描くのです。赤×だらけになった絵コンテをミセスノンタンに突返し、
「もう一度、じっくり練りなおしたほうが良いみたいだね、うん」
(中略)
ミセスノンタンの目は悔しさにギラギラ燃え上っています。もちろん今度はミセスノンタンの敵討です。ミスターノンタンの絵コンテを取り上げ、隅から隅まで残さず目を通します。
「こんなひどいでたらめなこと描いて、よく平気ね。自分で何描いたか知ってるの。なんでノンタンやうさぎさんが、ああ疲れたってコーヒーを飲まなくちゃいけないのよ? 読者は子供なのよ。子供がコーヒーを飲むわけないじゃない」
(中略)
ミスターノンタンが一言いうと、ミセスノンタンは三言も四言もいい返します。二人は本気で怒り合い、口では敵わないと思ったミスターノンタンは表に飛びだすのです。
(引用ここまで)
ぜんぜん、ホワホワしてない。
激しく戦いながら、二人でお話を作っていくのですね。
『ノンタン』って大和絵なんだ
わたしが驚いたこと。
↓
(以下引用)
「ノンタン」の画法は、日本古来からある大和絵の手法によっています。あの重要文化財、国宝『源氏物語絵巻』と同じ手法なのです。
『源氏物語絵巻』のできた平安時代、消しゴムなどありませんでした。ですから、墨で描かれた下図には、何本もの修復の線が加えられ、それらが消されぬまま残ることになります。(中略)この沢山の線の中から一番気に入った線を選びだし、岩絵の具で色を塗り重ねます。すると何本もあった修復の線は絵の具の下に隠れます。岩絵の具の材料は、群青・緑青・朱・黄土といった水には溶けない鉱物質で、これらを粉末にしたものに膠を混入して画面に彩色するのです。最後には黒々とした墨で一気に描き起しの線を入れて完成するわけです。墨の線はまっすぐではなく、ぶるぶる震えているような線ですが、決して緊張のために手がふるえたわけではありません。
(中略)
線が思うように走らなかったり、少しでも失敗したら、もうノンタンは死んでしまうからです。
(中略)
日本の古来からの絵は、線によって面と立体をも表現しています。
(引用ここまで)
大和絵だったんだ!
へー!!
「線が走る」「線で死ぬ」「線で生きる」「線で面と立体を表現する」
こんなふうに、夫婦二人で生み出した「ノンタン」が商品として本屋さんに並びました。
あるとき、二人で電車に乗っていたら、子供が小さなカバンから「ノンタン」の絵本を取り出して、大声で拾い読みを始めたそうです。
どんなに嬉しかったことでしょう。
二人でサイン会もしたそうですよ。
その後、お子さんが生まれ、マイホームに引っ越し、幸せな3人家族の暮らしでこの『二人でノンタン』は終わります。
泥沼の争いへ
その後、二人は協議離婚します。
偕成社は、どちらでもいいから、「ノンタン」の続きを描いて欲しかった。
サチコさんは、一時、行方不明になっていたみたいです。
やすおみさんが、続きを描いたけど、ボツになったみたいです。
「ノンタン」の続きを一人でも描くことができたのは、サチコさんでした。
それも、やすおみさんは、サチコさんが一人で「ノンタン」を描くことを当初は同意していなかった。
偕成社に頼まれて、同意したみたいです。
離婚後、やすおみさんは「ノンタングッズ」を販売して儲けていたそうです。
これは、サチコさんは同意していなかった。
「ノンタン」を描いたのはわたしだと主張したようです。
絵本とお金と権利と離婚と親族が絡み、かなりドロドロ泥沼の争いになったようです。
リンク先から、判決文が読めます。
何度も読み返してしまいました。(ヒマ人か)
結局、サチコさんが著作権者だという判決がおりて、作者は「キヨノサチコ」さんだということになったようです。
「ミリオンぶっく」に掲載されている「ノンタン」シリーズ、全部読んでみようと思います。
子どもにとっては、作者が離婚して泥沼の裁判沙汰になったなんか、何にも関係ないんだもんね。
ただ、目の前の絵本が「面白いか」「面白くないか」
それだけ。