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絵本の登場人物と絵本の外に生きるわたしたちがこんなにも関わり合う『ベーコンわすれちゃだめよ!』

ベーコンわすれちゃだめよ!
(パット・ハッチンス 作 わたなべしげお 訳 偕成社 1977年9月)

 
 
 
地の文がありません。
お母さんの言葉と主人公のこの子の言葉と心の声のみで進行していくんです。
 
表紙の題名
「ベーコンわすれちゃだめよ!」
吹き出し。
 
見返し。
「ベーコンわすれちゃだめよ!」
吹き出し。
 
中表紙
「ベーコンわすれちゃだめよ!」
しつこく。
お母さん、背伸びまでして。
 
 
お母さんの買い物の依頼の言葉。
 


(以下引用)
「うみたて たまごが 6こと
おちゃに いただく ケーキと
なしを ひとやま かってきてね。
それから ベーコン わすれちゃだめよ」
(引用ここまで)



 
ここまで吹き出し。
 
ちょっと、命令口調で、念押しで、しつこく読みます。
いつも、自分の子どもに声かけるような感じで(笑)
 
 
そのあと、ずっと、この子の心の声。
 
買い物すべき4つのものが、道中、視界に入ったものに引きずられて、違うものに脳内ですり替わっていく。
 
いきなり、違う。
 


(以下引用)
ふとい だいこんが 6ぽんと
おちゃに いただく ケーキと
なしを ひとやまと
それから ベーコン
わすれない。
(引用ここまで)



 
結局、買ったのは


(以下引用)
せんたくばさみを 6ぽんと
おちばかきの レーキと
それから いすを ひとやま
ください
(引用ここまで)



 
 
買った荷物を古道具屋のおじさんに持たせて家に帰りながら、
 
 


「いすを ひとやま
だったかな?」



 
とこの子の心の声が続く。
 
ちゃんと買うべきものを次々に思い出し、リカバリーします。
 
ラスト
家について
 


「あっ ベーコン わすれた!」



 
この、この子の言葉に
読み手も聞き手も
それぞれ、おもいおもいにツッコミを入れながら楽しめる絵本。
 
 
 
絵本の中の登場人物と、絵本の外に生きるわたしたちがこんなにも、関わり合いの余白がありながら進行する絵本。
 
読み手と聞き手に、ツッコミを入れさせてくれる。
どうぞ、ツッコミを入れてください、と言わんばかりに。
秀逸だなあ。
 
そして、このこの子の買い物に付き合ってくれてるのは
犬 だけじゃない。
 
必ず、一緒にいるもの。
何も言わずに、一緒にいるもの。
 
言葉で、文章で、進行する物語と、絵で進行している物語。
 
パット・ハッチンスの作る絵本は「これぞ、絵本でなければ、できない表現」
 
絵本である必然性がメリメリと感じられる。
 
絵が言葉を補い、言葉が絵を補う。
『ロージーのおさんぽ』(パット・ハッチンス 作 わたなべしげお 訳 偕成社)もそうですよね。
 
多分、「ベーコンわすれちゃだめよ!」は、素話(素語り)などでは存分にこの面白さは伝わらないのではないかと思います。
絵本でなければ!
 
実は、読み手以上に聞き手は、その物語を、絵で進行する物語も含め、随分と深く楽しんでいるかもしれない、何も言わなくても。
 
大人の人に読んだところ、いろんなご感想をいただきまいた。
 
「買い物に出かけて、すでに、もう、このこの子が何を頼まれてたのかわからなくなった」
 
「誰も怒らないなんてすごい」
 
「仕事で『レーキ』を使ってるから、馴染みあるものだ」
 
循環するお庭でシニアの皆さんに読みますと、「あはははは」と大笑い、とても喜ばれます。
 
「わかるわあ。買い物のメモをしてもメモを忘れちゃう」
「自分の字が読めない」
「2階に上がって、『何しに来たっけ?』とか」
 
 
この絵本は、意味のわかりづらい言葉が登場するんだけれど、読み手が中断して、「レーキっていうのはね」な~んていちいち説明するのは野暮。
だって、絵で描かれているから。
聞いている人は「レーキ」がなんなのか言葉としてはわからなくても「これかな」となんとなくあたりをつけながら物語を丸ごと楽しむ。
 
わたしは「ついてこいや」という気持ちで
どんどん読みます。
 
それにしても
「ぼくにいただくケープ」
なんじゃそりゃ?
 
原文を読んでみます。
 
『DON'T FORGET THE BACON! 』
by PAT HUTCHINS
 
six farm eggs(うみたてたまご6こ ) 

six fat legs(ふといだいこん6ぽん)

six clothes pegs(せんたくばさみ6ぽん)
 
 
a cake for tea(おちゃにいただくケーキ)

a cape for me(ぼくにいただくケープ)

a rake for leaves(おちばかきのレーキ)
 
 
原文は見事に韻を踏んでいるんですね!
原文は耳で聞いたときの音の楽しさもあったのね。
 
ケーキ、ケープ、レーキ
 
この子が、買い物すべきものを間違えちゃったのは、ただ見たものに引きづられてという理由だけじゃなくて、似たような言葉だから、っていう理由もあったんですね。
 
じゃあ、しょうがないな(笑)
 
それにしても、渡辺茂男さん、翻訳を苦労されたんじゃないかなと想像します。
 
 
a pound of pears(なしをひとやま)

a flight of stairs(はしごだんをひとやま)

a pile of chairs(いすをひとやま)
 
 

さて。
ベーコンを買いわすれた、この子。
また、買い物に行かされたけど、実は、それほど、大変でもないかも。
 
だってね、ベーコンを売ってるお肉屋さんってさ。
ほら。一番近くにあるんですよ。
 
 
インスタグラムでも『ベーコンわすれちゃだめよ!』ご紹介しています


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