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苦手な絵本だったんだ 不可解だから『とらのゆめ』

とらのゆめ
(タイガー立石 さく・え 福音館書店 1984年11月 こどものとも)


実は、わたしは勇気がなくて、この絵本になかなか手が出せなかったんです。
なぜかと言えば、得意な絵じゃない。
どちらかと言えば、ちょっと苦手。
しかも、不可解な世界。

とらのゆめ?
虎も夢を見るのだろうか?

ただでさえ、虎とは意思の疎通ができなそうだから、虎の夢となると、それはもう、理解不能だろうという心づもりを大きく超えて、不可解な世界が広がっている。

自分自身の夢だって、おかしいのだ。

緑の植木の上だけ、手をバタバタやると飛べる夢。飛べるのだけど、すごく疲れる。
植木の切れ目は、勢いをつけて、すごく早く手を動かすけど、落ちそうになるから汗をかく。
そんな夢。

パソコンやプリンターや家中のありとあらゆるところから、水がジャージャー出てくる夢。どうにもできなくて、わーわー騒ぐだけのわたし。

東海道線に乗っていたら、降りる駅を通り過ぎて、海の上を走っている夢。

(虎に負けてないか)

夢の話ほど、くだらなくて意味がなくて時間の無駄はないでしょう?
夢オチとか腹立つし。
だから、この絵本を購入することに怯んでいました。

でも、この絵本は最初から夢の話であることを宣言しているし、こんなにも不可解な夢の異世界を絵に描くって、天才なのかな?
天才でなれば、「とらのゆめ」の世界なんか描けないでしょう。

タイガー立石さん、初めての絵本。
タイガー立石さんは、絵本作家というよりは、芸術家ですよね。



月刊絵本の折り込み付録「絵本のたのしみ」の作者の言葉を紹介します。


(以下引用)
ひともとらも夢をみる

くとらのゆめ>にでてくる虎は、なぜかすべて緑色である。夢の中の虎だからと言ってしまえばそれまでだが、これにはある深いこだわりと、それに何となく時代の気分のようなものがある。(中略)私の虎は、動物と植物をかねあわせたイメージである。人間の生活や歴史が、人間同士の競い合いであった時代は、このところで急に変わろうとしている。そこにはやはり、水や空気や太陽や樹や草や動物たちとの調和のなかでしか、人類の平和が保てないと悟りはじめたわれわれの時代の気分がある。
10年前、イタリアはミラノに住み、タカタカという名の犬(バセットハウンド種のオス)を持っていた私は、ある日彼をつれて散歩の途中、4歳くらいの、可愛い男の子と母親の二人づれに出会った。子どもは犬をみるなり母親に質問した。「ママ! 動物も感じるの?」母は答えた。「そうよ、お宝さん、動物も感じるのよ」......。
母と子が、動物と人間の感覚の同一を語ることからすべてがはじまる。そこから出発して、植物について、水について、空気や土やエネルギーについて、そしてもう一歩すすんで、それらの循環や互恵の関係についてなど、大いに語り合うべきだと思う。私が虎の緑色にこだわったのも、そのへんに事情がある。
(引用ここまで)




動物と植物を兼ね合わせた虎なんですね。
確かに、表紙では、よくよく見ると、木に擬態している虎が動き出しているよう。
虎がスイカになりだるまになり、階段になり、自由自在に動物、植物、それ以外のものにも行き来します。循環していきます。さらには、地面から少し浮かんでもいるようです。
ただ単に意味不明な夢の世界を描いているだけじゃなくて、その奥に思想がある。じゃなければ、この世界は描けないだろう。
子どもたちには、作者の狙いや思想、時代の気分、そんなの関係ないだろうけど。

1984年に「こどものとも」で初版です。
そのあと、ハードカバーになったと思います。
わたしが購入したのは、2021年の「こどものとも年中向き」(再版)です。
このタイミングで、タイガー立石さんの大規模な展覧会があったんですね。
この絵本の原画も展示されたようです。

わたしは苦手な絵本でしたが、苦手な絵本を読んでみることで自分の枠を押し広げていく感じがかなり快感です。

とらのゆめ
(タイガー立石 さく・え 福音館書店 1984年11月 こどものとも)



インスタグラムでも『とらのゆめ』ご紹介しています


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