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失敗を恐れずにとにかく突き進む『ジャリおじさん』大竹伸朗さんの突飛な でも素敵な 提案

ジャリおじさん
(えとぶん おおたけしんろう 福音館書店 1994年11月)



2024年12月26日付 朝日新聞「きみが生まれた日」で『ジャリおじさん』について作者の大竹伸朗さんが語っていました。

そうだったのかー!
へー!
ほー!

読みながら、何回か、声を上げてしまいました。

この絵本を描いていた頃、


(以下引用)

「長女が幼稚園児で、妻のおなかに次女がいました。
自分が子供たちに語る話を考えようとしたけど、教訓的なものは苦手。
淡々と何も起きないで始まって、何も起きないで終わる話がいいんじゃないかと思いました。

(引用ここまで)


大竹伸朗さんが夫である世界線。
大竹伸朗さんがお父さんである世界線。

わたしは、家族にこんな人がいたら、正直しんどいんじゃないかと、展覧会を見たときにあとずさりしてしまいました。



2022年12月 大竹伸朗展 国立近代美術館


(以下引用)

全部の原画を描き終えたころ、長女の幼稚園の友達が5、6人、家に遊びに来たんです。
その子たちに原画を見せたら「おもしろい」と言われて。伝わった、これでいけるな、と思ったのを覚えています。

(引用ここまで)



その友達とやら。
すごいものを見たね。
あれの原画を。
実物を。
見たのだね。
そりゃあ「おもしろい」だろうよ。
切ったり貼ったりしてるあの原画を。


(以下引用)

絵は一枚の紙に続けて描いていくのではなく、失敗した箇所にはあえて上から別の紙に描いたものを貼りつけました。
失敗を恐れずにとにかく突き進むことで、逆に自分の意図しないものが生まれる。

(引用ここまで)



「失敗を恐れず」とはよく聞く言い回しだけど、それはつまりこういうことだよ、というのが1冊の絵本の中に具現化されてて、ファンキー。


(以下引用)

普通に見れば落書きでしかないようなものを「ジャリおじさん」には組み込みたいと思いました。
状況をうまく描写することには、あまり興味がない。
だから、言葉で解釈可能なストーリーを求められる絵本づくりは挑戦でした。
自分が普段やっていることと切り離すのではなく、絵本の世界の縛りとのギリギリの接点を探す試行錯誤に、半年ぐらいかかりました。

(引用ここまで)


絵本の縛り。
例えば、大きさ。ページ数。平面。印刷。
これだけとってみても、この偉大な画家の表現には縛りがキツいだろうなあと。

でも、そうでもないのかも。

元々、「こどものとも年少版」で依頼されたので、原画は小さかった。
だから原画の上下に紙を貼って「こどものとも年中向き」の判型にしてあるのね。
縛りを軽々と飛び越えている。(ように見える)(普通、そんなこと思いつかないんじゃないかしら)


ラストのこの部分が、突飛だけど、いいなあって思いました。

(以下引用)

どんな人でも死ぬまでに一冊、国民の義務として絵本を作る決まりがあったらいいと思うんです。
プロが作る絵本とは違って、起承転結は必要ない。
「還暦すぎたけどまだ絵本やってないんだよね」「俺は中学の時に描いたし」みたいな会話が繰り広げられて、もし絵本を作らずに死んでしまったら末代の恥。
そうすれば、おもしろいものがいっぱい、世の中にあふれるんじゃないかな。

(引用ここまで)


あ。
わたし?
絵本はもう作ったよ。
『ホンモノのスガキヤ』っての。

あなた、まだなの?
「国民の義務」だよ。





↑大竹伸朗展で購入した『ジャリおじさん』のお皿


目次

「こどものとも年少版」から「こどものとも」へ判型を変えたこと

ひそませること/あばきたてること ー絵本編集の現場から
(澤田精一 現代企画室 2014年6月)


著者の澤田精一さんは『ジャリおじさん』を編集した福音館書店の編集者です。

『ジャリおじさん』は依頼当初は、こどものとも年少版で出版の予定だったそうです。

こどものとも年少版っていうのは
正方形に近い判型なんですよね。


でも、澤田さんが大竹伸朗さんに
絵本制作を依頼したら
いきなり『ジャリおじさんの原画が来た。

通常は、ラフ、下書きのようなものがあるんだけどいきなり、原画、だった。

大竹伸朗さんは、下書きはしない。



(以下引用)

「絶対に下絵のほうがいいです。
下絵から原画にする作業というのは、無駄なものをとっていく作業でしょう。
その時点でつまらないんですよ。
これは、まず下絵を描いて本番を描くというコンセプトに縛られていると思うの。
それをしないと自分が安心しなからやっているというわけでしょう。」

「僕だったら、いい部分破いて貼っちゃいますよ。
線でも、意識して描いた2度目の線というのはもう絶対にだめなんです。
だから、自分が結果的に絵としていいと思うものを組み合わせていけばいいわけですよ。
1枚の紙に一発勝負みたいにして描くというのは精神の問題であって、わかるんだけれども、そこにこだわっても結果的につまんなきゃしょうがないでしょう。」

(引用ここまで)


ふんぎゃあ。
かっちょええ。
つまんないってことに対して実にシビア。

それでいて、実はジャリおじさん以前に二百点近い油絵でのスケッチがあった、という。
これは下絵ではなく。具体的な形になる前の混沌とした状態。
考える作業。
試行錯誤。

この澤田さんの著作の表紙に使われている油絵のジャリおじさんの絵、がそうなのかなあ。

ここから、一気に原画にいく。

澤田さんは、ジャリおじさんの原画を見たらすぐに「これは年少版じゃない」とわかって
こどものとも年中向きで出すことにした。

だけど、判型が違う。
縦長になる。
A4くらいの。

年少版の判型で原画ができちゃってて、判型が変わるってなっても、元がコラージュだから
大竹伸朗さんは、サクッと判型も直せちゃう。

そう思って見ると、上下に紙を継ぎ足してあるんですよね。
ページ数も、年少版と年中向けでは違うから2場面増やしてあるんです。

その増やした場面が、大竹伸朗さん的には

(以下引用)
「この場面が唯一自分にとってはあまりにも絵本ぽいかなというか、
合わせたページというか。
ちょっと恥ずかしい感じがする。」
(引用ここまで)



へええ。
この場面が恥ずかしいんだあ。
絵本ぽいから恥ずかしいって面白い感覚だなあと思いました。
でも、好きだなあと思いました。

これ見よがしに、
いいでしょ。
いいでしょ。
ここ感動するでしょ、ね。ね。
ここ面白いでしょ、ね。ね。
っていういやらしさを感じてしまう絵本もあるのでね。

もう。本当にオソロシくかっちょええ人ですよ、大竹伸朗さんという人は。
そしてこの人に絵本を作らせた澤田さんも超絶面白い人ですね。


『ジャリおじさん』編集者 澤田精一さんと

ピンクのわにのピンク(印刷のこと)

想いが募り、2021年11月に澤田精一さんの講演会を主催しました。

その中で印象に残った言葉をご紹介します。
(オフレコじゃないと思われる部分で)
(聞き覚えのメモなので、細部違うかもしれません)

澤田さんが絵本の編集を始めたとき
「新人は新人作家を探せ」
と言われたそうです。

それで、あちこちの美術館や画廊を見て回ったそうです。

どの人が絵本を作れるかどうかわからないけれど、
おなかの中にしっかり居座ってる作家に頼めばなんとかなるだろうと。

それが現代美術の大竹伸朗さんだった。

大竹伸朗さんは、スクラップブックを作っていたので
「本」というかたちに興味があるだろう、
絵本、いけるだろう、と考えたそうです。


初めて、大竹伸朗さんと澤田さんが会ったとき。

想像してみてください。

かたや、全身から感受性がビリビリとほとばしっているような黒づくめの現代美術家。

かたや、背が高く、ロシア人と間違えられるという強面の澤田さん。

そんなお二人が
「絵本が…」と話し始めたとしたら。

なんか可笑しくないですか。
想像したら可笑しくなってしまいました。
お二人の近くで聞き耳を立ててみたかったです。

「ブラチスラバ世界絵本原画展」
(略称BIB=Biennial of Illustrations Bratislava)が
なぜ、絵本そのものではなく原画で選考されるのか。

それは、国によって印刷技術がぜんぜん違うから、なんだそうです。

なるほど、そうか〜。
言われてみたら、確かに。

原画を原画のとおり印刷して再現するのは、別の専門技術が必要なんですね。

そこは絵を描いた作者はあずかり知らぬところ。

編集者と印刷屋さんとのやり取りがあるんですね。

通常の印刷ではでない色を

「いいから出せ!」
「何が何でも出せ!」と

あの澤田さんが仮に怒鳴ったとしましょう、かなり迫力があるはずです。(想像)

すると印刷屋さんも意地で試行錯誤して、出ない色を出す、

澤田さんが「どうやったんだ?」と聞いても
「へへへへ」と笑って教えてくれない。

そんなプロとプロのぶつかり合いを想像しながら聞きました。

『ジャリおじさん』で言えば
ピンクのわにのあのピンクは通常のインクでは出ないそうです。

通常のセットインクからサンフラワーという色に変えたそうです。

絵本を見てもらうと分かりますが
コラージュの紙の重なったところは
通常の印刷では飛んでしまうそうなんです。

カメラで撮影したそうです。

製版の担当者からは
「澤田さん、これゴミですか? とっていいですか?」
と聞かれる インクのしみのようなものがたくさんあるんですよね。

絵本に残ってますね。

23ページの山の線も
一度描いて消したような
消しきれてないような線がもう1本あります。

したり顔で
「これ消したほうがいいですよ」と言ってくる人もいたけれど

澤田さんは
「この線も大竹伸朗さんがあえてこの線を残しているんだから」
とそのままにしたそうです。

澤田さんが
大竹伸朗さんの表現を編集者として死守した、
というかなんというか。

印刷屋さんが
「できない」と言って
編集者が
「そうですか」と受けてしまったら
別のものになってしまう。

澤田精一さんが『ジャリおじさん』読み聞かせしてくださいました。
(途中解説付きで)

たいこおじさんのところ上手だった〜
(って失礼ですよね、でも、たいこで喋るところ、難しいんです)



「ドドンコ トントコ ドコドコ トン ドコドコドン
トコトン」

YouTubeと過去のブログ

『ジャリおじさん』についてYouTubeで喋ってます



『ジャリおじさん』関連ブログのほんの一部(どんだけ好きなんだ)

絵本「ジャリおじさん」編集者 澤田精一さん講演会

ジャリおじさん 素通りできなかった

なんて読みやすい絵本なのだろうと衝撃を受けました



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