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あまりにも優しくて泣けてくる『車のいろは空のいろ ゆめでもいい』

車のいろは空のいろ ゆめでもいい
(あまんきみこ 作 黒井健 絵 ポプラ社 2022年11月)



松井五郎さんシリーズの22年ぶりの新刊。
生活クラブの本の花束(2024年3月)で、あまんきみこさんの言葉が紹介されていたので購入しました。

あまんきみこさんの初めての本は『車のいろは空のいろ』。1968年。
それから56年後、まだ、松井五郎さんは、タクシーの運転をしている。すごいなあ。

この本には、7つのお話が収められています。
どれもこれも珠玉。
なんでこんなにいいの?

冒頭のお話から、あまりの優しさに涙が出てしまいます。
「優しさ」をこんなふうに表現できるのか、と。

「きょうの空より青いシャツ」というお話。

松井さんのタクシーに、子だぬきが乗ります。

(以下引用)
「ねえ、このシャツとズボン、どう? ぼくに、にあう?」
(えっ。)
 とっさにへんじができません。だってこの子だぬき、青いぼうしはたしかにかぶっていますが、シャツなんかきていないし、ズボンもはいていないのです。つまり、まるはだかというか、くりいろの毛皮の服をきているというか。
(引用ここまで)


子だぬきは、男の子に化けているつもり、なのです。
でも、化けれていない。

お支払いは、イチョウの葉を3枚。

子だぬきは、走り去るのですが、また、戻ってきます。
そして、こう言います。

(以下引用)
「ぼく、ぼく、人間の男の子じゃなかったの。ほんとは、たぬきの子。
ばけてて、ごめん。」
(引用ここまで)


松井さんは、最初っから、子だぬきのお客さんだと思っていたので、ぽかんとしてしまいます。

しばらくして、子だぬきは人間の男の子に化けているつもりだったことに気づき、松井さんはこう言います。

(以下引用)
「いいんだよ。いいんだよ。きみは、そのままだったよう。ごめんは、こっち。ごめんは、こっち。」
(引用ここまで)


はー。

なんと優しい世界なんだろう。

ファンタジーとリアルの混ざり具合が、たまらない。

男の子に化けるのに失敗していると自分で気づけない、ちょっと、お間抜けな子だぬきの、なんと愛らしいこと。
たぬきだとわかってて、タクシーに乗せてあげる松井さんのなんと優しいこと。
松井さんに正直に白状する子だぬきのさらに輪をかけて、間抜けで愛らしいこと。
謝られて、謝る松井さんのなんと優しいこと。

読むたびに、あまりの優しさと愛らしさに泣けてくるほど。

循環するお庭でシニアの皆さんに読みました。

今度、子どもたちにも、どこかで読みたいなあ。

お話1つだけなら、読めるのではないかしら。

お客さんの夢の中に入ったり、お客さんの過去に行ったり、松井さんの過去に行ったり、動物と人間と生と死と時空間が混ざるのだけど、そこにちょうどいいくらいのリアルがある。

松井さんの誠実さとお仕事ぶりと優しさにリアルがある。

あまんきみこさんは、なんでこんなに優しい物語が生み出せるのだろう。

巻末に、あまんきみこさんの作品について2021年に綴った文章があります。

(以下引用)
 子狸の話は、幼いころ、祖母からよく聞きました。話のなかのその子狸は、ちょっとぬけていたので、わたしは「ぬけさくちゃん」と呼びました。
 それから何十年も過ぎて、松井さんのタクシーに懸命に手をあげて乗った青帽子の子は、あの「ぬけさくちゃん」ではないかと気づいたのは、なんとこの前のことなんですよ。
(引用ここまで)



「きょうの空より青いシャツ」というお話は初出は2002年とのことなので、「ぬけさくちゃん」は20年近く経って、やっと作者に気づかれたのですね。

黒井健さんの絵がまた、良いのです。
優しさとあたたかみが増しています。
北田卓史さんの絵も良かったですけどね。

「白いぼうし」は国語の教科書に載っている時期もありましたね。


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